京都府立医科大学大学院医学研究科  免疫学(松田研究室)
Department of Immunology, Kyoto Prefectural University of Medicine

Q&A

インターネット上の書き込みなどで多くの方が疑問に感じておられることについて、この場でお答えします。

【以下は、2022年10月25日更新】

オミクロン型変異株も茶カテキンで不活化されますか?
オミクロン型変異株BA.1、BA.2、XE、BA.5、BA.2.75はいずれも、緑茶、抹茶または紅茶で10秒間処理すると、感染力が1/100以下に低下します。各サブバリアントごとに、EGCG、GCG、TFs各カテキン類化合物に対する感受性は異なります(詳しくは「研究」のページをご参照ください)。

【以下は、2021年10月27日更新】

紅茶にはミルクやレモンや砂糖を入れて飲むことがありますが、それでもウイルスを抑制できますか?
紅茶に砂糖やレモン果汁を加えても、新型コロナウイルスを不活化する活性は変わりません。しかしミルクを加えると、ウイルス抑制効果はなくなってしまいます。ミルクに含まれるカゼインというたんぱくが、紅茶に含まれる有効成分、ガレート型テアフラビンと結合してしまうためと考えられます。したがって、紅茶を飲んで新型コロナウイルスを不活化するには、ミルクを入れずに飲むことが必要です。この研究は査読前のプレプリントとして論文発表しました。 Milk casein prevents inactivation effect of black tea galloylated theaflavins on SARS-CoV-2 in vitro | bioRxiv
紅茶でも効くのなら、イギリスなど紅茶がよく飲まれる国や地域で新型コロナウイルスの感染者が多かったことと話が合わないのではないか?
多くの方々が抱かれる重要な疑問です。イギリスでは98%の人が紅茶にミルクを入れて飲むと言われています( BBC NEWS | Health | Milk in tea ‘blocks health gains‘)。そこで、日本における緑茶とは違ってウイルス抑制効果が得られなかった可能性があると考えています。もちろん特定の国や地域における感染者数には生活習慣、行政施策、遺伝等さまざまな要因が関与するので、喫茶習慣と感染者数の相関は単純には語れないと考えられます。

【以下は、2021年7月6日更新】

お茶ってどんなお茶が新型コロナウイルスを不活化できるのか?
茶葉から抽出した、緑茶、ほうじ茶、紅茶、ウーロン茶について、試験管内で新型コロナウイルスを不活化することを見出しています。
メーカーや産地は検討していませんが、茶カテキン類(正確には、EGCG、TFDG、TSAなど)が多いお茶ほど効果は高いと考えられます。また同じ茶葉であっても、高い温度のお湯で抽出するほど、茶カテキン類の濃度は高くなります。
ペットボトルのお茶は、緑茶とほうじ茶は有効であることを確認しています。茶カテキン類を多く含むものがよいと考えられます。
変異ウイルスへの効果は調べていないのか?
今回論文に発表したデータは、すべて変異ウイルスではなく、従来型のウイルスを用いた実験です(下記のように科学的な手続きを踏むと、実験結果が出てから正式な発表までにはどうしても時間が掛かってしまうのです)。
ただ、未発表のデータを簡単にお話ししますと、緑茶とEGCGはブラジル型には効果がありますが、イギリス型に対しては従来型ウイルスに比べて残念ながら効果が低いという結果を得ています。
ヒトが飲んだら口の中のウイルスを不活化できるの?
今回は試験管内の実験結果です。ヒトがお茶を飲んでどのような効果が得られるのかについては、臨床研究を行わなければわかりません。ただ、私たちは試験管内で、ヒトの唾液中に新型コロナウイルスを加え、ここにお茶を10秒間加えるという実験も行っています。つまり、感染者がお茶を飲んだときに口の中で起こる現象に近い条件を試験管内で作ると、ウイルスの感染力が1/100から検出限度以下にまで下がることは確認しています。
今回の研究って、聞いたことがある気がするけど、新しいことなの?
今回の論文とほぼ同様のプレプリント(査読前の論文)は、私たちは2020年12月に発表しています。
また同時期に同様の研究結果が他の研究者たちからも発表されています。今回(2021年6月)は査読付きの国際科学雑誌に発表したということで、メディアが取り上げて下さったのだろうと考えています。
研究の経緯は?
お茶が新型コロナウイルスを不活化することを、私たちが最初に見出したのは2020年5月です。
その後、株式会社伊藤園と共同研究を開始し、半年後に現在の論文とほぼ同じ内容のプレプリント(査読前の論文)を発表しました(2020年12月)。査読付きの国際科学雑誌に採択されるまでに、さらに半年を要しました。
この研究って、どんな役に立つの?
茶カテキン類は、血液中にはごくわずかしか吸収されませんされませんので、お茶を飲んで不活化できる可能性があるのは、口の中と消化管だけだと考えられます(肺や鼻腔にはカテキンは微量しか届かない)。
そこで、お茶を飲んだ人本人にとっての、治療や予防の効果はあまり期待できないと考えています。
しかし、多くの人がお茶を飲めば、唾液中のウイルスが不活化されることによって飛沫感染が減少し、人集団全体としてはウイルスの感染拡大を減弱させられる可能性は考えられます。
たとえば飲食店などで、マスクを外したらまずお茶を飲む、といった行動を多くの人がとれば、無症状の感染者から周りの人への感染が減らせるかもしれません。
つまり、お互いに他人のためにお茶を飲むという、「公衆衛生的な」使い方は有効な可能性があります。
また、自宅待機している感染者が家族に感染させないために、動線が交差する前などにお茶を飲むと有効かもしれません。
お茶って普段から飲んでますけど?
日本では、食事のたびに、またそれ以外のときにも、お茶を飲む人が多いので、知らず知らず感染拡大を、欧米などに比べれば抑制できていたのかもしれません。
つまり、日本で新型コロナウイルスの感染が比較的少なかった理由(いわゆるファクターX)のひとつではないかと考えています。
ただし、飲食店やカラオケで飲酒するときには、お茶を飲まない人が多いので、このことが、会食や「夜の街」での感染の原因となっているかもしれないと考えています。
そこで、マスクを外したら飲酒の前にお茶を飲むことで、会食などの場での感染拡大阻止につながる可能性が考えられます。
紅茶でも効くのなら、イギリスで新型コロナウイルスの感染者が多かったことと話が合わないのではないか?
多くの方々が抱かれる重要な疑問です。この疑問に関連する、ある仮説を私たちは立てており、現在その検証実験を行っています。
公衆衛生的な使い方ってどんなの?
マスクを着ける理由は、自分が感染しないこともありますが、それ以上に、万が一自分が感染していても周りの人に飛沫を通じて感染させないためです。
それと同様に、多くの人が他人と接する前にお茶を飲めば(とくに飲食店などでマスクを外したとき)、飛沫中のウイルスが不活化されることによって、周りの人への感染が減少し、結果的に人集団全体として感染拡大が減少できる可能性があると考えています。 
ポビドンヨードでうがいをすれば感染拡大を抑制できると言われていたのと同じ?
公衆衛生的な使い方という点では近いと考えていただいて結構です。しかしポビドンヨードは毒性があるので、毎日頻回に行う訳にはいかず、また飲んではいけないのでうがいをした後吐き出さなければなりません。その点お茶だと安全に、毎日でも頻回に飲むことができるので、実用的だと考えます。もちろん過剰な摂取は禁物ですので、密な環境に行くときや、食事のためにマスクを外したときなどに、少量のお茶を含み飲みするのがよいと考えます。
お茶が買い占められて買えなくなるんじゃないのか?
以前ポビドンヨードうがい薬が薬局で品薄になったことがあるので、ご心配の方がおられるかもしれませんが、ポビドンヨードうがい薬とは違って、お茶は日本国内に莫大な量の在庫があるそうなので、買えなくなるようなことは考えられません。
含み飲みって何ですか?
10秒間程度口腔内全体にお茶を行き渡らせてから飲むと、すぐに飲み込むよりもよいと考えます。
お茶と茶カテキン類によるウイルスの不活化って、新しいことなの?
お茶と茶カテキンがインフルエンザウイルスを抑制することは以前からよく知られています。
また細菌や真菌を抑制することもよく知られています。